6月4日、蒸し暑いジャカルタに戻ってきました。今回は、ANFREL(Asian Network For Free Elections)のインドネシア大統領選挙監視ミッションに参加するためです。
今年のインドネシアは、選挙一色。インターバンドが監視活動を行なった、世界でも 指折りの複雑な総選挙(4月5日)の次は、インドネシア史上初の直接大統領選挙 (7月5日予定)です。7月の第一ラウンドで、大統領候補・副大統領候補が全国で 50%以上、16州以上でそれぞれ20%以上の得票率を稼がなければ、上位2組が 10月に予定されている第二ラウンド(決選投票)へ進むことになっています。
大統領選に出馬しているのは、下記の5組です。 立候補者のうち、インドネシア最大のイスラム教団体「ナフダトゥール・ウラマ(以 下、NU)」のトップ、アブドゥルラフマン・ワヒッド元大統領(通称グス・ドゥル) は、健康面の理由から選挙管理委員会より立候補資格無しとみなされ、選挙戦に出る ことができませんでした。
■立候補者一覧(以下、登録番号順。正:正大統領候補、副:副大統領候補。)
No | 政党 | 区分 | 立候補者 |
---|---|---|---|
1 | ゴルカル党選出 | 正 | ウィラント(元国軍司令官) |
副 | ソラフディン・ワヒッド(NU副議長、ワヒッド前大統領の弟) | ||
2 | 闘争民主党選出 | 正 | メガワティ・スカルノプトリ(現職大統領) |
副 | ハシム・ムザディ(NU議長) | ||
3 | 国民信託党選出 | 正 | アミン・ライス(国民協議会議長) |
副 | シスウォノ・ユドフソド(元移住政策担当大臣) | ||
4 | 民主党選出 | 正 | スシロ・バンバン・ユドヨノ(前政治・治安調整大臣、退役軍人) |
副 | ユスフ・カラ(前福祉調整大臣) | ||
5 | 開発統一党選出 | 正 | ハムザ・ハズ(現職副大統領) |
副 | アグム・グムラール(前運輸通信大臣、退役軍人) |
今回、ANFRELは、この選挙を監視するため、アジア各国から7名の長期選挙監視員 (Long Term Observer -以下、LTO-)を集めました。タイのANFREL事務局からソムス リ、マレーシアからANFRELのコーディネーターとしてヘリザルと、マレーシアの選挙 監視NGOからマレック、台湾の人権NGOからスリナ、フィリピンの選挙監視NGOから ニッキ、スリランカの選挙監視NGOからインディカ、そしてインターバンドから私、 清水です。
このメンバーが、ジャカルタでの3日間のブリーフィングを経て、それぞれの担当地 域に約1ヶ月派遣されることになります。
ジャカルタでのブリーフィングを経て、6月9日から古都ジョグジャカルタに派遣さ れています。ジョグジャは、ジャワ島の中南部に位置し、スルタン制が今なお存在し ている、大学の都として知られています。日本では、京都と友好都市の関係にあるそ うです。
ジョグジャカルタ特別州の知事は、ハメンクブオノ10世です。このスルタンは、ゴル カル党のメンバーであり、ゴルカル党内の大統領候補選にも一度は出馬した人物で す。スルタンは、この地域で人々に敬愛される存在であり、そのことが果たして今回 の選挙に影響するのかどうかも、注目される点です。
特別州の中には、ジョグジャカルタ市を中心に、南北東西にそれぞれ1つずつ、あわ せて4つの郡があります。中でも、南のバントゥール郡には、スハルトが生まれた村 があります。今でもスハルトの弟がそこに住んでおり、地元の住民は、長年ゴルカル を支持してきた人々です。そして、現在のバントゥール郡の市長は、熱烈なメガワ ティ支持者。メガワティ本人を同郡に招待してキャンペーンを行なうほどです。そし て、ジョグジャカルタ自体は、インドネシア第二のイスラム団体ムハマディーアの地 盤であり、この団体の指導者で、市内にあるガジャマダ大学で教鞭を取っていた、ア ミン・ライスの支持基盤となっています。
さまざまな要素が絡みあっている状況、お分かりいただけたでしょうか。私は、この 特別州内の区域をカバーすることになるのですが、ひとりで隅から隅までカバーする のは到底不可能ですので、まずはANFRELの現地協力NGO団体、KIPP(独立選挙監視委 員会)と密に連絡を取り、地域の状況についてブリーフィングを受けつつ、活動を開 始することにしました。
(写真: Folding ballot papers at KPU Kab Bantul - バントゥール郡の選挙管理 委員会に届いた投票用紙。一つ一つ、手作業で用紙を折りたたんでいます。4月の総 選挙の時と違い、今回は選挙の準備も比較的スムーズ。この選挙管理委員会では、既 に3分の1を折りたたみ終えたそうです。)
インドネシア史上初の直接大統領選挙。その選挙キャンペーンは、ここ、ジョグジャ カルタでは、いまのところ非常に静かです。ジョグジャ入りしてから、ひたすら村々 をまわって有権者からインタビューを取っています。各候補者のキャンペーンチーム (サクセス・チームと呼んでいます)が、有権者にたいしてどのようにアプローチし ようとしているのかを探るためです。
今回の選挙は、今までの政党メカニズムをフルに使った総動員型の選挙キャンペーン とは異なった様相を呈しています。候補者が有権者に対して、主にテレビや新聞など のメディアを通して、直接、情報を伝える構造になっているように見受けられます。 テレビでの候補者同士のディベートも、ちらほら見られます。と同時に、候補者につ いての周辺情報が、ジャーナリストや政治評論家などによってさまざまに書き立てら れています。これに伴い、候補者に対するネガティブキャンペーンも盛んになってき ているようです。
ただ、有権者の方はというと、村々を回っているかぎりでは、大統領選に対して非常 に熱が低いといえます。大統領選に出馬している候補者数をたずねても、帰ってくる 答えは、「3人かな?」「・・・4人。」「6人!」といった答え。人々に届く情報 は、テレビを通した情報が主で、「今回は4月のときと違って、地元でのキャンペー ンをあまり見ない」「サクセス・チームが、キャンペーンに誘ってくることも、候補 者のポスターやステッカーを家まで配りにくることもない」という話をよくききま す。
有権者と候補者の距離が、近いようで遠いような選挙キャンペーン。今のところ、そ ういった印象を受けています。