2004年インドネシア大統領選挙

第一回 インドネシア大統領選挙 ANFREL選挙監視スタート

6月4日、蒸し暑いジャカルタに戻ってきました。今回は、ANFREL(Asian Network For Free Elections)のインドネシア大統領選挙監視ミッションに参加するためです。

今年のインドネシアは、選挙一色。インターバンドが監視活動を行なった、世界でも 指折りの複雑な総選挙(4月5日)の次は、インドネシア史上初の直接大統領選挙 (7月5日予定)です。7月の第一ラウンドで、大統領候補・副大統領候補が全国で 50%以上、16州以上でそれぞれ20%以上の得票率を稼がなければ、上位2組が 10月に予定されている第二ラウンド(決選投票)へ進むことになっています。

大統領選に出馬しているのは、下記の5組です。 立候補者のうち、インドネシア最大のイスラム教団体「ナフダトゥール・ウラマ(以 下、NU)」のトップ、アブドゥルラフマン・ワヒッド元大統領(通称グス・ドゥル) は、健康面の理由から選挙管理委員会より立候補資格無しとみなされ、選挙戦に出る ことができませんでした。

■立候補者一覧(以下、登録番号順。正:正大統領候補、副:副大統領候補。)

No 政党 区分 立候補者
1 ゴルカル党選出 ウィラント(元国軍司令官)
ソラフディン・ワヒッド(NU副議長、ワヒッド前大統領の弟)
2 闘争民主党選出 メガワティ・スカルノプトリ(現職大統領)
ハシム・ムザディ(NU議長)
3 国民信託党選出 アミン・ライス(国民協議会議長)
シスウォノ・ユドフソド(元移住政策担当大臣)
4 民主党選出 スシロ・バンバン・ユドヨノ(前政治・治安調整大臣、退役軍人)
ユスフ・カラ(前福祉調整大臣)
5 開発統一党選出 ハムザ・ハズ(現職副大統領)
アグム・グムラール(前運輸通信大臣、退役軍人)

今回、ANFRELは、この選挙を監視するため、アジア各国から7名の長期選挙監視員 (Long Term Observer -以下、LTO-)を集めました。タイのANFREL事務局からソムス リ、マレーシアからANFRELのコーディネーターとしてヘリザルと、マレーシアの選挙 監視NGOからマレック、台湾の人権NGOからスリナ、フィリピンの選挙監視NGOから ニッキ、スリランカの選挙監視NGOからインディカ、そしてインターバンドから私、 清水です。

このメンバーが、ジャカルタでの3日間のブリーフィングを経て、それぞれの担当地 域に約1ヶ月派遣されることになります。

 

第二回 ジョグジャカルタ到着

ジャカルタでのブリーフィングを経て、6月9日から古都ジョグジャカルタに派遣さ れています。ジョグジャは、ジャワ島の中南部に位置し、スルタン制が今なお存在し ている、大学の都として知られています。日本では、京都と友好都市の関係にあるそ うです。

ジョグジャカルタ特別州の知事は、ハメンクブオノ10世です。このスルタンは、ゴル カル党のメンバーであり、ゴルカル党内の大統領候補選にも一度は出馬した人物で す。スルタンは、この地域で人々に敬愛される存在であり、そのことが果たして今回 の選挙に影響するのかどうかも、注目される点です。

特別州の中には、ジョグジャカルタ市を中心に、南北東西にそれぞれ1つずつ、あわ せて4つの郡があります。中でも、南のバントゥール郡には、スハルトが生まれた村 があります。今でもスハルトの弟がそこに住んでおり、地元の住民は、長年ゴルカル を支持してきた人々です。そして、現在のバントゥール郡の市長は、熱烈なメガワ ティ支持者。メガワティ本人を同郡に招待してキャンペーンを行なうほどです。そし て、ジョグジャカルタ自体は、インドネシア第二のイスラム団体ムハマディーアの地 盤であり、この団体の指導者で、市内にあるガジャマダ大学で教鞭を取っていた、ア ミン・ライスの支持基盤となっています。

さまざまな要素が絡みあっている状況、お分かりいただけたでしょうか。私は、この 特別州内の区域をカバーすることになるのですが、ひとりで隅から隅までカバーする のは到底不可能ですので、まずはANFRELの現地協力NGO団体、KIPP(独立選挙監視委 員会)と密に連絡を取り、地域の状況についてブリーフィングを受けつつ、活動を開 始することにしました。

(写真: Folding ballot papers at KPU Kab Bantul - バントゥール郡の選挙管理 委員会に届いた投票用紙。一つ一つ、手作業で用紙を折りたたんでいます。4月の総 選挙の時と違い、今回は選挙の準備も比較的スムーズ。この選挙管理委員会では、既 に3分の1を折りたたみ終えたそうです。)

 

第三回 静かなキャンペーン。候補者との距離は・・・

インドネシア史上初の直接大統領選挙。その選挙キャンペーンは、ここ、ジョグジャ カルタでは、いまのところ非常に静かです。ジョグジャ入りしてから、ひたすら村々 をまわって有権者からインタビューを取っています。各候補者のキャンペーンチーム (サクセス・チームと呼んでいます)が、有権者にたいしてどのようにアプローチし ようとしているのかを探るためです。

今回の選挙は、今までの政党メカニズムをフルに使った総動員型の選挙キャンペーン とは異なった様相を呈しています。候補者が有権者に対して、主にテレビや新聞など のメディアを通して、直接、情報を伝える構造になっているように見受けられます。 テレビでの候補者同士のディベートも、ちらほら見られます。と同時に、候補者につ いての周辺情報が、ジャーナリストや政治評論家などによってさまざまに書き立てら れています。これに伴い、候補者に対するネガティブキャンペーンも盛んになってき ているようです。

ただ、有権者の方はというと、村々を回っているかぎりでは、大統領選に対して非常 に熱が低いといえます。大統領選に出馬している候補者数をたずねても、帰ってくる 答えは、「3人かな?」「・・・4人。」「6人!」といった答え。人々に届く情報 は、テレビを通した情報が主で、「今回は4月のときと違って、地元でのキャンペー ンをあまり見ない」「サクセス・チームが、キャンペーンに誘ってくることも、候補 者のポスターやステッカーを家まで配りにくることもない」という話をよくききま す。

有権者と候補者の距離が、近いようで遠いような選挙キャンペーン。今のところ、そ ういった印象を受けています。